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【短編ホラー】素直な心

花子は、何でも人の話を信じる中学3年生だった。
どんな嘘でも決して疑わない。

 

クラスメイトのメグはそれを面白がって、いつも適当な嘘で花子をからかった。

「ふでばこに消しゴムを20個入れると、成績が上がるんだって」
「教えてくれてありがとう」
メグに言われた花子は、あふれる程の消しゴムをふでばこに詰め込んで、クラス中の笑いものとなった。

 

「左右で違う靴をはくと、肌がキレイになるんだって 」
「教えてくれてありがとう」

「牛乳に納豆入れると、背が伸びるんだって」
「教えてくれてありがとう」

花子は、メグに言われることは何でも実行した。

 

はっきり言って、それはいじめであった。
何でも信じる「アホな花子」の行動を、メグは心から楽しんでいた。



卒業式間近のある日、メグは花子に言った。

「輪ゴムを右足の親指にギューって巻きつけて、そのまま10年間放っておくの。そしたらメッチャ幸せになれるんだって」

「教えてくれてありがとう」

 

花子はその晩、さっそく右足親指に輪ゴムを巻きつけた。メグに言われたとおり、キツクキツク結びつけた。

 

3日後、花子が悲しい表情でメグにたずねた。
「ねぇメグちゃん。輪ゴムがね・・・。切れそうなの・・・。今はギリギリつながってるけど・・・。どうすればいい?」

メグは正直ウザイと思った。
「何本かの輪ゴムを、重ねて巻けばいいと思うよ」
適当に答えてその場を逃れた。

 

次の日、花子は足をひきずったような形で教室に現れた。

「14本の輪ゴムを重ねて巻いたの。これで切れる心配無いよね。ちょっと歩きにくいけど、がんばるね」
花子は感謝の笑みを浮かべた。メグは適当に返事をした。

 

その日以来、花子は足をひきずって学校に来た。卒業間近でほとんど授業は無いため、体育の時間なども無く、花子の様子を気にする生徒は少なかった。メグも最後の中学校活を楽しむのに忙しく、彼女を気にかけるヒマもなかった。

 

やがて卒業式をむかえ、花子とメグは別々の高校へと進学した。


4年後。

19歳になったメグは、私立大学の1年生になっていた。

ある雨の晩。
メグが一人自宅にいると玄関のベルが鳴った。


玄関をあけると、雨と闇にまぎれるように、うっすらと立つ女性がいた。
「メグちゃん、久しぶり・・・」
女性は低い声で言った。

 

メグはその女性を見て、ハッとした。
花子だった。
4年の歳月がたったとはいえ、それは紛れもなく花子だった。

 

メグはたじろいた。
今さら何の用だろう、と。
「ひさしぶり花子ちゃん。どうしたの・・・?」

「あのね、中学のとき、『足の親指に輪ゴムを巻いて10年たてば幸せになれる』て教えてくれたでしょ?」


メグは、すっかりその事は忘れていた。
「そうだっけ?」
適当な返事をする。

 

「あたし、その通りがんばったの。何があっても、輪ゴムを途切れさせないように。でも・・・」

花子は、ビニール袋を取り出した。

中には、ぐちゃっとした肉の塊が。

 

「これ、右足の親指。とれちゃったの」

強烈な腐敗臭が玄関を満たす。

 

「4年間、がんばって足親指に輪ゴム巻いたの。皮膚とくっついてグチャグチャになっても、そのたびに新しい輪ゴムを巻いたの。そのうち、輪ゴムが親指にメリ込んで皮膚がドロドロに腐って・・・。すごい痛くて、ウミみたいな黄色い液体が出てきた。でも必死で我慢したよ。せっかくメグちゃんがすてきな事を教えてくれたんだもの」

 

花子は続ける。

 

「でもね、昨日の夜、とうとう親指がとれちゃったの。ねぇメグちゃん。あたし、もう幸せにはなれないの?」

 

「大丈夫だよ」
メグは微笑んだ。

 

「今度は左足の親指に輪ゴムを巻きな。10年後、幸せになれるよ」

「そうなんだ。教えてくれて、ありがとう」

おわり。

 

 

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